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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)4867号 判決 1997年5月15日

原告 X

右訴訟代理人弁護士 片山善夫

被告 株式会社福徳銀行

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 夏住要一郎

岩本安昭

阿多博文

主文

一  被告は、原告に対し、金一八〇二万〇三三五円及びうち金一七二六万〇八二六円に対する平成七年一二月二〇日から、うち金二六万円に対する平成七年一二月二二日から、内金二五万円に対する平成八年六月二二日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一八〇二万一三七六円及びうち金一七二六万〇八二六円に対する平成七年一二月二〇日から、うち金二六万円に対する平成七年一二月二二日から、内金二五万円に対する平成八年六月二二日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、銀行業を営む株式会社である。

2  原告は、別紙預金目録記載一ないし三の各「預け日」記載の日に、被告の北畠支店(現阿倍野支店北畠出張所)に対し、「金額」記載の金額を、各記載の期間、利率の約定で定期預金として預け入れた(原告名義の同目録記載の預金を総称して「本件預金」といい、それぞれの預金を「本件預金(一)」、「本件預金(二)」及び「本件預金(三)」という。)。

原告は、昭和四六年三月にB(以下「B」という。)と結婚以来、Bの父C(以下「C」という。)の経営する福田建設株式会社の取締役(昭和五六年一〇月からは代表取締役)報酬などの収入があり、それらの収入から預け入れられたものが本件預金である。

3  原告は、本件預金の各満期日に、被告に対し、本件預金の払戻しを請求した。

4  よって、原告は、被告に対し、本件預金契約の終了に基づき、本件預金の元金及び利息の合計一八〇二万一三七六円及びうち本件預金(一)の元金一七二六万〇八二六円に対する本件預金(一)の満期日の翌日である平成七年一二月二〇日から、うち本件預金(二)の元金二六万円に対する本件預金(二)の満期日の翌日である平成七年一二月二二日から、うち本件預金(三)の元金二五万円に対する本件預金(三)の満期日の翌日である平成八年六月二二日から各支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

1(一)  請求原因1の事実は認める。

(二)  請求原因2の事実のうち、原告名義の原告主張のような預金が存在することは認めるが、右預金が原告に帰属するものであることは否認する。

本件預金は、原告が、Cから保管を委託された金銭中から自己の名義で預金したものであって、その出捐者はCであるから、原告に帰属するものではない。

(三)  請求原因3のうち、原告が、本件預金(一)の満期日に同預金の払戻しを請求したことは認め、本件預金(二)及び本件預金(三)の満期日にその払戻しを請求したことは否認する。

2  本件預金については、その払戻しを請求するためには、被告所定の払戻請求書に届出印を押印の上、預金証書(通帳)とともに提出しなければならない旨の約定(以下右のような払戻請求手続を「本件手続」という。)が存するところ、原告は、本件預金について右の払戻しの手続をしていない。

三  被告の主張に対する反論

1(時機に遅れた攻撃防御方法)

本件預金の払戻しの請求の手続についての被告の主張は、平成九年三月二七日の第九回口頭弁論期日においてはじめて主張されたものである。しかし、この主張は、より早い時機に主張することが可能であったものであり、他方、この主張について審理をすると本件訴訟を著しく遅延させることになるから、時機に遅れた攻撃防御方法として却下されるべきである。

2(信義則)

次のような事情からすると、本件において、被告が本件手続が履践されていないことを主張して本件預金の払戻を拒絶することは信義則に違反する。

(一)  原、被告間においては、原告の預金についての払戻し、書換え、継続等の手続は、被告の従業員が原告の自宅に赴いて行っていた。

(二)  被告は、原告が本件預金の通帳及び届出印に係る印章(以下「印章」という。)を所持していることを認めている。

(三)  被告は、原告に対し、満期日前からあらかじめ本件預金の払戻しに応じない旨を表明しており、原告が本件預金の払戻しを求めた際にも本件手続の履践を求めず、平成九年三月二七日になってはじめて本件手続が履践されていないことを主張しているのであって、原告が本件手続を履践しないために、本件預金の払戻しを拒絶したわけではない。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二1  被告に対し、原告名義の別紙預金目録記載一ないし三のような預金が預け入れられていること、右預金の通帳及び印章を原告が所持していることは当事者間に争いがない。

2  被告は、原告名義の右の預金は、原告が、Cから保管を委託された金銭中から自己の名義で預金したものであって、その出捐者はCであるから、原告に帰属するものではない旨主張するが、右主張事実にそう証拠はない(原本の存在及び成立に争いのない甲二五号証中には、昭和六一年四月か五月ころ、三八五五万円を原告に預けた旨の供述記載があるが、これを裏付けるものはない上、この事実があったとしても、この三八五五万円の一部が本件預金として預け入れられたことをうかがわせる資料はない。かえって、原告が昭和五五年ころから相当の収入を得ており、自己名義の預金を有していたことをうかがわせる<証拠省略>があり、このことに、右1の事実と併せると原告名義の別紙預金目録記載(一)ないし(三)の預金(本件預金)は、原告に帰属するものと認められる。

三1  原告が本件預金(一)について、満期日にその払戻しを請求したことは、当事者間に争いがない。

2  もっとも、成立に争いのない乙四号証及び弁論の全趣旨によると、本件預金については、その払戻しの請求には本件手続を履践することが必要である旨の約定があった事実が認められる(原告は、右約定の存在及び効果を主張することが、時機に遅れた攻撃防御方法である旨を主張するが、被告の右の主張によって訴訟が著しく遅延するものとは認められないから、それが攻撃防御の方法に当たるとしても、いまだ時機に遅れたものということはできない。)。

なお、前出乙四号証及び弁論の全趣旨によると、本件預金は、被告は預入れ金額について満期日までは所定の利息を付することを約し、その一方で、原告は、被告がやむをえないと認めて解約に応ずることがある(その場合に、被告が原告に支払う利息は、右の所定のものよりも低額となる。)ほかは、満期日までは、預金の払戻しを求めることができず、また、満期日以降については、原告の払戻請求があるまでは普通預金の利率によった利息を付するものとされていることが認められる。

これによると、被告は、本件預金について、満期日以降に本件手続を履践した払戻の請求があるまでは、本件預金の払戻義務につき遅滞に陥ることがないというべきである。

3  しかし、<証拠省略>によると、次の事実を認めることができる。

(一)  原告は、平成七年一〇月二三日ころ、本件預金の通帳、印章等を持って家を出た。

(二)  B及びCは、同日、被告の担当者を自宅に呼び、原告が本件預金の通帳と印章を持って家を出たが、本件預金はBに帰属するものであるから、原告が通帳と印章を持参して払戻請求をしても、払戻しに応じないよう要請した。

(三)  原告は、平成七年一〇月二四日ころ、被告の担当者に電話をして、原告名義の預金の払戻しを求めたところ、被告の担当者は、Bからの要請があるから払戻しには応じられない旨を原告に告げた。その後も、原告は、二回にわたって被告の担当者に電話で原告名義の預金の払戻しを求めたが、被告の担当者は、これを拒絶した。

(四)  被告は、従前は、担当者が原告の自宅を訪問して原告名義の預金の預け入れ、払戻し、継続等の手続を行っていた(この事実は当事者間に争いがない。)。

4  右事実によると、被告は、B及びCから原告の本件預金の払戻請求を拒絶するようにとの要請を受け、原告からの本件預金の払戻請求には、原告が本件手続を履践するか否かにかかわらず、これに応じない旨の方針をとっており(この点は、本訴において被告の認めるところである。)その方針を原告に伝えていたものということができる。他方、従前は、被告の担当者が原告の自宅に赴いて、本件預金に関する諸手続を行っていたというのであるから、本件預金の払戻し等について必要な手続は、被告の担当者が必要に応じて教示していたことが確認できるところ、原告が電話で被告の担当者に払戻しを求めた際に本件手続が必要である旨を教示することは、極めて容易なことであり、また、原告は、本件預金の通帳と印章を所持していたのであるから、右の教示をされておれば、本件手続を履践することも可能であったし、被告も、原告が本件預金の通帳と印章を原告が所持していることを知っていたのであるから、右の教示をすれば、原告が本件手続を履践することを認識し得たものということができる。

これらのことに、被告が本件第九回口頭弁論期日まで本件手続が履践されていないことを主張していないことをも併せると、被告の右の主張は、原告が本件手続を履践すると否とにかかわらず本件預金の払戻請求を拒絶することとしていた被告が、本件手続が履践されていないことに藉口して、払戻義務の遅滞の責を免れようとするものにすぎないとも評価することができ、被告は、本訴においては、信義則上、原告が本件手続を履践していないことを主張することができないというべきである。

5  なお、原告が本件預金(二)及び本件預金(三)の満期日に、右預金の払戻請求をしたことを認めるに足りる証拠はない。しかしながら、前3(三)のとおり、原告は、平成七年一〇月二四日以降、電話で原告名義の預金の払戻しを求めており、その趣旨は、本件預金(二)及び本件預金(三)についても少なくともその満期日に払戻しを求める趣旨であると理解することができ、本件においては、信義則上、本件預金(二)及び本件預金(三)の払戻請求があったのと同視することができる。

四  ところで、前出乙四号証によると、本件預金(一)の利息は、付利単位を一〇〇円とし、預入日から満期日の前日までの日数に基づき一年を三六五日とする日割計算によって計算することとされているので、これに基づいて計算すると計算上、一九万〇三八八円となる(円未満切捨て。以下同じ。)。また、本件預金(二)及び本件預金(三)の利息については、証拠上、その計算方法は明らかではないが、弁論の全趣旨によると、原告主張の額(本件預金(二)について三万一七四六円、本件預金(三)について二万七三七五円。いずれも元金額に約定利率と満期日までの年単位の期間によって計算した額)を下回らないと認めることができる。

五  以上によると、原告の本訴請求は、主文第一項の限度で理由があるから、右の限度でこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条ただし書に、仮執行の宣言につき同法一九六条一項にそれぞれ従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 水上敏)

<以下省略>

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